番外編「銃を持つ民主主義」英訳本を抱えてのアメリカの旅

●11月2日に成田を発ち、またアメリカの旅に出かけてきています。 正味3週間、ワシントンを振り出しに、ボストン、ケンブリッジ(ハーバード大学)、ニューヨーク、サンフランシスコ、スタンフォード大学、バークレーと、アメリカ大陸を東から西へと回る『大旅行』です。確かに、この3週間という期間は、2002年5月に私がジャーナリストに復帰して以来続けているアメリカ取材旅行(通算15回)の中でも一番長いものです。

●しかし、『大旅行』と名づける理由は、期間の長さだけでなく、旅の目的の重さです。殆どの日程が、十月末にバークレーのStone Bridge 社から出版された拙著『銃を持つ民主主義』の英訳本のプロモーション関連行事だからです。私は、企画された講演やサイン会に拙著を紹介する主役として参加せねばなりません。つまり私が、あの太平洋戦争でB29の爆撃を受けることで出会ったアメリカという国を「銃を持つ民主主義」と名づけてその建国期にまで遡って分析したアメリカ論を、直接アメリカ市民にぶつける旅となったからです。(注 なお、『銃を持つ民主主義』(小学館)の英訳版”Democracy with a Gun- America and Policy of Force”は、日本国内でもすでに紀伊国屋書店新宿本店と南口店、大手町センタービル店、大阪店及び札幌店の店頭に並んでいることをご報告しておきます。)

●振り出しは7日のワシントンです。日本大使館広報文化センターが続けている『著者にきくシリーズ』というイベントに招かれたからです。 

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私が60年代と80年代初め、二度に渡って足掛け8年勤務し、私にとっては第二の故郷といってもいい、アメリカの首都ワシントンで、アメリカの政治の成り立ちとその特質を正面からを論じる機会を得たことは名誉なことと思っています。


●この私の講演には、米CBSテレビのホワイトハウス詰め長老外交記者として有名なBill Plante氏がモデレーターとして参加してくれ、二人で「アメリカという国」の政治について論じることになります。Bill Plante記者は、私が共同通信ワシントン支局長として、1981年~4年まで、レーガン政権第一期のホワイトハウスを取材していた頃に出会って以来の友人です。Plante氏は今年70歳、私と同じ年にホワイトハウス取材陣に加わり、ホワイトハウス詰めを続けた後、3年間国務省取材に転じながら、1992年、再びホワイトハウスにもどり現在も外交問題を中心に活躍している、現役中の現役です。安倍首相が辞任する直前のシドニーでのブッシュ・安倍会談も取材しています。

●高名な、元UPI通信(現在はハースト系新聞系チェーンの特派員)のヘレン・トーマス女史についでのホワイトハウス記者団の長老記者といってもいい存在です。彼はコロンビア大学で政治学を専攻しアメリカ政治の歴史にも通じており、添付したワシントンのイベントのフライヤーの写真でもおわかりいただけるようにハンサムなジェントルマンです。しかし、大統領との記者会見では歯に衣をきせない鋭い質問をすることで知られています。レーガン時代のベーカー国務長官中東シャトル外交の報道等で、エミー賞を4回も受賞している超ベテランのテレビ記者です。

●彼の参加によって、『銃を持つ民主主義』という、私が展開するアメリカ論をめぐる論議では、これ以上ないパートナーを得たと期待しています。とにかくワシントンでの日本関係のイベントとしては毛色の変わった一夜になると思っています。

●ちょうど偶然のことながら、民主党との大連立構想をめぐる小沢民主党首の辞任騒ぎで混乱する日本政局を背負っての福田首相初訪米直前というタイミングでもあり、参加者との討論では、当然、現在及び今後の日米関係の話題が飛び出すことも覚悟しております。私はこのブログでも兼ねてから、「日本に無い米朝関係」・「硫黄島での栗林中将」などのテーマで繰り返し報告している、日米すれ違い論を展開する所存です。

●そして次はニューヨークです。11月12日に、80年代初めからロックフェラーセンター横の49丁目店に店を構えていた紀伊国屋書店が今回再開発でかつての目抜き通りの地位を回復した42丁目に近いブライアント公園に面した新しい店舗の記念行事として、私の本のサイン会が企画されています。ここでもスピーチを求められています。ニューヨークは私が結婚したばかりの家内と共に1964年12月18日に初めて共同通信特派員として赴任した土地です。43年後にこうした晴れがましい場を得るとは思いもかけなかったことで、これまた感慨にふけっています。参考までに、同じくイベントのフライヤーを添付します。

●14日には、拙著でも第7章に「Lez Edmond氏との出会い」と中見出しをつけて細述している、これまた長年の黒人の友人、元マルコムXスタッフのLez Edmond氏が企画してくれた行事に参加します。同氏がマルチカルチャーセンターの所長を勤める、ケネディ空港近くのジャマイカ地区にあるSt.Jones大学で、黒人やアジア系など、いわゆるマイノリティを中心とする学生との話し合いが予定されています。Edmond氏はすでにわが拙著を読み終え、「全米のカラード、つまり有色人種にとって必読の本だ」とまで持ち上げてくれています。そして、15日夜には、ニューアーク空港からサンフランシスコに夜間便で飛んで、16日はスタンフォード大学のブックセンターで紀伊国屋書店と同じようなサイン会が予定されています。

●1960年のケネディとニクソンが対決した大統領選挙戦を共同通信外信部の新米記者として担当して以来アメリカを追い続ける私のキャリアの中でも、かつてない重い『大旅行』だということはおわかりいただけると思います。帰国後の11月末に、次回の第11回ブログでその報告をさせていただくことをお約束します。ワシントンとニューヨークの間の3日間は、ハーバード大学図書館で、米中関係をテーマとする次の本の調査を行う予定です。

●そのころには、前回のブログで報告した、日本の頭ごしにすすむ米朝和解の実像もさらに明らかになるものと予測します。実は、現在北京では10月27日から11月13日までの予定で、ブログ開始以来第1回、第2回、第9回では写真つきで日本で唯一の報告として発信している、米シラキュース大学による北朝鮮のエリート工業大学「金策工業総合大学」の教員、学生に対する、IT英語の通算4回目の研修が着々と進行中です。

●これに先立ち、ニューヨークのコリアソサエティ幹部は、北朝鮮側が2月に招くことを熱望しているニューヨークフィルの平壌訪問の実現に協力、平壌を訪れてきたばかりだとのメールを送ってくれました。このニューヨークフィルの話は、前回の第10回でも末尾にウォールストリートジャーナル紙の報道として伝えてありますが、このコリアソサエティ幹部によると、北朝鮮側は連日文化省次官がつきっきりでニューヨークフィル先遣隊の面倒をみている、とのことです。従って次回第11回ブログでは、この、日本の拉致問題に決定的な影響を持つ米朝和解の動きに象徴される、福田初訪米後の日米関係の試練を、来年の大統領選挙戦での民主党政権登場の可能性までも展望した上で分析を加える予定です。

ワシントンにて松尾文夫 2007年11月7日

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